桜空あかねの裏事情

黎明館 食堂



「お断りします。明確に教えて頂かなければ、絶対に嫌です」


丁寧な口調だが、はっきりとした拒否。
目の前の男に、冷ややかな視線と共にそう言い放ったのは結祈だった。
敬語ではあるものの、どこか棘を含んでいる。


「だから言っているだろう。私の愛読書が紛失した。探してこい。今すぐに」

「……どうやら言い方が悪かったようです。何故、自分が探さなければならないその理由を、教えて下さい。こちらも暇ではないんです」


余裕の笑みを浮かべ、悠然とした態度のジョエルに対し、憤りを感じながらもあくまで平然とした態度を崩さない結祈。
普段は賑やかな食堂も今は、彼らが放つ威圧感と冷ややかな対応によって、凍り付くような、はたまた張り詰めたような空間になりつつあった。
そんな中でも、両者は普段と変わりなく平然としている。
また結祈は、誰よりも早く起床し朝食を用意する。
そして全員が食べ終わるのを確認すると食器を洗い、そのまますぐ掃除を始めるか洗濯物があれば洗濯をする。
それがここ数年の午前中の彼の日課であり、故にその時間を邪魔される事は、彼にとって腹立たしい事でもある。


「暇ではないと言うが、たかが掃除だろう」

「たかがと言いますが、一人で掃除をするのに対する館の広さを考えて下さい。それに一番時間の掛かる三階が、まだ残っているのですから」

「三階?私の部屋とお嬢さんの部屋だけだろう。何に手間取る?」

「何を言うかと思えば……貴方の部屋が一番汚いんですよ。自覚ないんですか?毎日掃除しているのに、何故あんなに散らかす事が出来るのか。こちらからすれば、非常に理解し難いです」


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