桜空あかねの裏事情

自己完結するように言い終えれば、ジョエルは結祈に歩み寄り、目の前に立って見下ろす。


「と言うことだ。探してきてくれるだろう?」


サングラス越しから、うっすらと覗く鋭い眼光はしっかりと結祈を捉えている。
この男は始めから分かっている。
どう言えば、自分の思い通りになるのかを。
確信したような物言いを不快に感じながらも、相手にしても無駄である事は長年の経験により十分に理解している為、目を伏せて頷く。


「……ええ。貴方ではなく、あかね様に必要なら断る理由はありません」

「フッ……物分かりが良いのは母親譲りか。それとも」

「長年の経験と知恵かと思いますが」


これ以上無駄話を聞きたくないのか、言葉を遮るとジョエルは変わらず愉しげに笑った。


「貴方には望んでもいないのに様々な事を体験させられ、余計な知恵まで身に着けられましたからね」

「おや、そうだったかな?」

「ええ。貴方が忘れても自分は忘れません……決して」

「…………ならそういう事にしておこう。お前は私にとって必要な存在。機嫌を損なわせてしまったら後々、怖いからな」

「…………」


その言葉に結祈は何も言わず沈黙する。
そんな姿を見て、ジョエルもまた何も言わず、彼の横をすり抜けてドアへと歩いていく。


「では頼んだぞ」




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