桜空あかねの裏事情
ドアが閉まる音を背で聞きながら、結祈はただ立ち尽くしていた。
「………」
――今回も出来なかった。
――一見歯向かって、突き放しても
――いつも丸め込まれて
――良いように動かされてる。
――分かっている。
――ジョエルにとって自分は
――ただ都合の良い存在という名の駒で、
――それ以上でもそれ以下でもない事を。
彼は今も変わらず、“彼”しか見ていない。
自分に関心すら抱かない相手の言う事など、聞く耳など持たず、反抗でも何でもすればいい。
頑なに信じていた愚かで、恨めしい幼少期ではないのだ。
――そう思うのに。
――そう思うのに、それが出来ない。
――自分の性質を知り尽くしてる、
――あの男に振り回されてばかりだ。
――それでも。
――それでも僕は彼女の役に立って
――守らなければ。
そう決意した時、再びドアが開いた。
「結祈ー」
「……陸人さん」
ジャージ姿に裸足。
朝食の時と格好が変わっておらず、今の今まで寝ていたのだろうかと思いながら、貼り付けた笑みで迎える。
「ねぇボクのクマちゃん知らない?」
「クマちゃん?ああ……部屋に置いてあるぬいぐるみの事でしょうか?」
聞けば、陸人はそうそう。と頷いた。
「それなら洗濯する予定でしたので、恐らく洗濯場に置いてあるかと」
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