桜空あかねの裏事情
そう言って陸人は、朔姫の頭を軽く撫でて食堂を後にした。
その後、朔姫はしばらく立ち尽くしていたものの、無言のまま食堂に足を踏み入れ、奥にいた結祈に視線を向けた。
「おかえりなさい。朔姫」
悟られることなく瞬時に笑顔を作って、朔姫を迎える。
「ただいま……」
「今日の学校はどうでしたか?」
「楽しかった。クラスメートも寄り道もしてから」
「そうですか。良かったですね」
普段と変わらない他愛ない会話。
そのはずなのに、どこかぎこちなく気まずい。
遂には沈黙まで訪れてしまうが、打開する気にはなれなかった。
と言うよりは今の結祈にはそんな事さえ考えられなかった。
しばらくすると沈黙を破ったのは朔姫だった。
「あの…」
「はい」
「桜空さんの事なんだけど……」
「あかね様ですか?」
朔姫は素直に頷く。
「今日はデー………用事があるから帰りが遅くなるって」
「……そうですか。あかね様も年頃ですからね」
言い掛けただけでおおよそ推測が出来たのか、結祈がそう言えば、朔姫はばつが悪そうに視線を逸らす。
「じゃあ……私は部屋に」
「はい。今日の夕食は六時半ですから」
逃げるようにして食堂から出て行く朔姫に言伝のように伝えれば、結祈は自分の作業に戻っていく。
拭いきれない不安や苛立ちを抱えながら。
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