桜空あかねの裏事情

確かにそうだ。
社会でなくても日常の生活でも、自分の意見がまかり通らない事などいくらでもある。
だがそれでいいのだろうかと、あかねの中には疑問が残る。


「でも私は……そういうのはイヤ」

「フン。お嬢さんは世間知らずで、意固地な上に我儘だからな。堅苦しい世界などまっぴらだろう」


ジョエルの適切かつ皮肉を含んだ物言いに彼思わず睨み付けそうになるが、言い当てられているのも事実であると、反論する気にはなれなかった。
でも自分の言いたいことはそうじゃない、と否定されるのも覚悟してあかねは口を開く。


「ジョエルの言う通り、私は世間知らずでワガママだけど、自分の気持ちや意志が伝えたい相手に伝わらないことがあるのは理解はしてるつもり」

「まるでそういう事があったみたいな言い方だな」


核心をついたような言葉に、自分の息を呑む音が聞こえたが、敢えて知らない振りをして話を続ける。


「それでも関わって言葉を交わして、互いの思いを知って心を通わせることが出来たなら、それはその人を少しでも理解出来たことになる……はず」


自分でも確信を得ていない事に、徐々にあやふやになりながらも、負けじとあかねは拙い言葉を紡ぐ。

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