桜空あかねの裏事情
「そんなの酷い。別になりたくてなったわけじゃないじゃん」
「否定しないが、だからと言って自ら進んで火の粉を被ろうとするヤツもいないだろう」
「それもそうだけど、納得いかない」
僅かな口論に、ジョエルは呆れたような溜め息をついた。
「お嬢さんは少なくともそう思うだろう。だが逆も考えてみるんだな。チームに入るなら必然的に異能を使わざる得ない。それは即ち、その者に自殺行為を強要させていると考えられないか?」
「あ……」
その言葉にあかねはハッとして、バツが悪そうに黙り込む。
――そうだ。
ジョエルの話からすれば、異能を使えばそれだけ負担が掛かって命も危ぶない。
無闇にやたらと使うことなんて出来ない。
「……すいません。よく知らないで勝手なことばかり」
頭を下げながら謝ると、駿は首を横に振った。
「拒絶症の者は異能者やチームに関わらず、一般人として過ごすのがほとんどだ。だから知らなくて当然なんだ。気にしないでくれ」
「……………はい」
返事はしたものの、未だに腑に落ちないあかねを気にしつつ、駿は再びジョエルに視線を向ける。
「……話を戻すが、拒絶症の俺を選んだ理由は何だ?」
「簡潔に述べるなら、君のハンデがありながらも引けを取らない異能の素質と潜在能力。そして非常勤とはいえ見事な指導力。今のオルディネは教育必須の若輩者が多くてな。君のような教育者は必要なのだよ」
「……それが理由か」
「ああ。少なくとも私が賛成した理由はな」
含みある笑みを浮かべ、決して全てを語ろうとしない物言いに、駿は思わず眉をひそめる。
「どういうことだ?」
「大したことではない。ただ君を指名したのは私ではなくてな。詳しくは、このお嬢さんに聞いてくれ」
「何?」
誘導されるまま、彼はあかねを見遣る。
その瞳はわずかに驚きを含みながら、彼女の青い瞳を捉えている。
「君が……俺を指名したのか?」
問い掛けに、間をあけながらも静かに頷く。
「……はい。勝手ながら、ジョエルに頼んでそうさせてもらいました」
「何故」
「養成所で初めてお会いして話した時に、葛城さんに興味が湧いてきたのが、きっかけだったと思います」
目の前にいる駿を見据えながら、彼と初めて会った日を思い出す。
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