桜空あかねの裏事情

「迷ってる私を案内してくれて、それから話していく内に葛城さんがオルディネに関心や憧れがあったり、真面目で生徒達の事もちゃんと見てたりしてて……少しだけど色々な葛城さんを見て、こういう人が今のオルディネに必要なんじゃないかって思ったんです」

「そこまで言ってくれるのはありがたいが、俺には話した通りハンデがある。再興を望むオルディネにとって、足を引っ張るだけかと思うが」


駿の後ろ向きな言葉に、あかねははっきりと首を横に振った。


「いいえ。私は能力が長けてる人が欲しいんじゃなくて、オルディネに必要な人が欲しいんです。だから、それは絶対ないです」


告げられた言葉に、思わずハッとして目を見開く駿。
しかし現実に引き戻されるかのように、すぐに神妙な面持ちになる。


「君はそう言っても、他の者達が納得しないのでは?」

「それは問題ない」


答える前に、隣にいるジョエルが口を挟む。


「この私が擁護するからな。咎められる事などない。まぁ……君がある条件を呑むと言ったらの話だが」

「条件?」


駿が聞き返せば、ジョエルは口元に薄い笑みを浮かべて目を細めた。


「お嬢さん」

「何?」

「彼と二人で話したい。悪いが少し席を外してくれ」

「え――」


突然の事に声を漏らす。
異論があるわけではないが、自分を抜きにして話すということは、やはり次期リーデルと認めてくれているとはいえ、実力不足だと思われているからだろうか。
当然と言えば当然なのだが、あかねはどことなく腑に落ちない。


「…言っておくが、君が思っているようなことではない。私が彼と直々に取引をしたい事があってね」


そんな心境を見抜いていたのか、はたまたその思考に辿り着くだろうと予想されていたのか。
ジョエルはいつもの皮肉げな笑みは崩さないものの、いつもよりどことなく優しい声色で告げる。
自分の思い違いであると知り、あかねはほっとしたように微笑むが、同時に図星を突かれたことに内心恥ずかしいと思ったりもしていた。


「気になるのであれば、詳細は後ほど伝えよう」

「わかった」


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