桜空あかねの裏事情


部屋から出たあかねは、昶達がいるであろう食堂に戻ることもなく、客間のドア付近の壁に寄りかかり体育座りをしながら待つことにした。

――そういえば、ちょっと早いけど
――今日からゴールデンウイークなんだった。

林間学校から帰ってきてそのまま休みが続き、あかね達を含む大徳高校の生徒は世間より少し早めの連休に入っていた。
特に予定を入れていたわけではないが、家にあった異能者に関する書物を取りに行く為、兄に実家に帰る約束などをしていた。
しかしジョエルから与えられた書物によって、大抵の欲しかった知識を手に入れた今となっては必要なものではなかった。
というよりかは、彼女にとって実家に帰る事自体が億劫なのかも知れない。


「はぁ……」

「おや?溜め息なんかついて、どうしたんだい?」


声をかけられ顔を上げると、そこにはアーネストの姿があった。


「アーネストさん」

「やぁあかね嬢。今日もとても可愛らしい」

「いやいや、山川さんの方が可愛いですよ」


照れる事もなく笑顔で答えると、アーネストは僅かに苦笑しながら更に歩み寄る。


「さすがはあかね嬢。見事だね」

「?」

「それより、こんなところに座ってどうしたんだい?お客さんが来てるはずだけど……まさかジョエルに追い出されたとか?」

「いえ、そういうわけではないと思います…………多分」


追い出されたと言えばそんな気がしなくもなく、あやふやに答えるとアーネストは軽く笑った。


「つまり微妙なところなんだね。隣いいかな?」

「あ、はい。でも床に座わることになっちゃいますけど」

「構わないよ」


アーネストはあかねの隣に腰掛ける。


「なんだか、あかね嬢と二人で話すのは久しぶりだね」

「そうですね。ヴィオレットへ初めて行った時以来ですから」


それ以降は黎明館に住む者達で集まったりした時に話すことはあっても、二人きりで話す機会はなかったことを何となく思い出す。


「あかね嬢は朝から学校で、私は夜に仕事があったりして、なかなかタイミングが合わなかったからね」

「……アーネストさんって、仕事してるんですか?」


そう尋ねれば、アーネストは一瞬だけ目を丸くして素直に頷いた。


「もちろん。異能者とは言え成人だから一応働いてはいるよ……もしかして、働いてないと思ったのかな?」

「ええと……あの、少しだけ」


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