桜空あかねの裏事情

頷く昶の横で、あかねはアーネストと瀬々の両者を思い浮かべる。
同じ系統の異能を持つ二人は、真実を全て語らずどこか謎めいたところがあり、まるで性質と言わんばかりの共通点があった。


「まぁそんな事いっか。あかねの言うジョエルよりマシだろうし」

「当然」


短くそう言い切れば、昶は楽しげに笑う。


「そういやさっき、瀬々からメール来たんだけど。連休中に来てくれないかって」

「えー……なんか急。てか瀬々って連休も仕事してんの?」

「そうなんじゃね、多分」

「わーかーほりっく乙」


普段から瀬々は、情報屋の仕事に勤しんでいる。
それは彼にとって、やりがいのある事であるのと同時に、好きな事でもあるのだろう。
林間の時に互いが抱いていたわだかまりも解け、友人と認めらるようになった。
そんな瀬々の好意を、いつまでも断るわけにもいかないと、あかねは連休中の自分の予定を振り返る。
確かに予定はあるものの、連休全日埋まっているわけではない。
だが以前貰った地図はあまりにも部分的過ぎて、到底理解出来るものではなかった。


「行くとしたら、いつにする?」

「オレは四月中なら平気」

「四月中って……明後日までじゃん。なんとかなんない?」


すると昶は顔色を蒼白に染めながら、手を前に出し思い切り首を横に振る。


「無理無理!帰らねーと姉ちゃん恐い!」

「どんな感じ?」

「包丁片手に玄関で待ってる」

「そりゃ恐いわ」

「だろ?ま、とにかく行ってみようぜ。瀬々と仲良しになったんだしさ」

「仲良しじゃなくて、友達と認識出来たの」

「どっちも一緒だって!アーネストさん達に場所教えてもらって、行こうぜ?」

「んー……」


嬉しそうに尻尾を振る子犬のように目を輝かせる昶に対し、あかねは迂闊に返答が出来ず曖昧な態度をとる。
もちろん、藍猫屋には好奇心にも似た興味がある。
瀬々に会いたくないわけでもない。

――藍猫屋は情報屋だか
――余計な事とか聞かれたりするのかな。

気掛かりだったのはそこだった。
自分がリーデルであることを、瀬々以外の情報屋に知られてしまう事は避けたい。


「ジョエル達に話してからでも良い?」

「別にいいぜ」

「分かった。許可出たら行こう」

「りょーかい!」


満面の笑みで頷く昶。
彼に釣られるようにして笑えば、不意に客間の扉が開く音が聞こえた。


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