桜空あかねの裏事情

扉が完全に開く前に立ち上がって様子を伺うと、最初に客間から出てきたのはジョエルで続いて駿が出てきた。


「終わった?」

「ああ。思ったより長引いてしまったが……」


昶を一度見遣り少しの間黙り込む。


「……どうやら心配は無用だったな」

「?」

「何でもない。それよりお嬢さん。もう分かると思うが、君に朗報だ」

「!…もしかして」

「とりあえず、昶にも紹介しておこう」


そう言ってあかね達に駿が見えるように、ジョエルは横にずれる。


「こちらは葛城駿。異能者養成所で非常勤教諭をしている。結祈達にも後で報告するが本日付けで、このオルディネに所属する事になった」


その事実にあかねは驚愕を通り越し、唖然とする。


「……つーことは、オレを含めて二人入るってことだよな?」

「そういう事になる」


ジョエルが平然とそう答えると、昶は隣にいたあかねに抱き付いた。


「わっ!?」

「良かったな、あかね!リーデルにまた一歩近付いたぜ!」

「う、うん。そうだね……で、痛いんだけど」

「やっぱオレのダチは最高だな!優しいし、強いし、可愛いし!」

「………」


それから数分。
昶の激しい抱擁が続いたが、ジョエルのあからさまに呆れと不愉快の混じった視線が痛いほど伝わり、ようやく解放される。


「全く近頃の子供は。何かあるとすぐはしゃぐ」

「子供って……オレもう16なんだけど」

「無自覚なのが何よりの証拠だ」

「ちぇ……はいはい、そうですか。そりゃオジサンから見れば、オレらはガキだよな。それくらい分かりますよーだ」

「…なんだと?」


ジョエルと昶の間には、僅かながら火花が走る。
そんな様子を呆れながら、あかねは彼等の後ろにいる駿の方へと駆け寄る。


「葛城さん」

「どうした?」


声を掛けてみるものの、彼の表情は緊張感が解けてないのか笑みはなく、むしろ仏頂面に近い。


「あの、オルディネに所属する決意をして下さって、本当にありがとうございます」

「いや…その……俺も推薦してくれた事、感謝している」


感謝の意を告げると、駿も戸惑いながらも感謝の念を述べる。


「私、もしかしたら断られちゃうんじゃないかって思ってました」

「何故?」

「だって葛城さんの事情を考えてなかったし、オルディネの状況もこんなだし、私がリーデル候補だし……」


上目遣いで気まずそうに言えば、駿は一度目を伏せて口を開いた。


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