桜空あかねの裏事情
「確かに君のような若輩者が、リーデルになる例はない。故に君には相応の実力があるのかと思ったが、彼の話を聞く限り異能もろくに使えない下の下だという事も理解した」
「………はい」
二人で話している間にそこまで知られていたのかと思う傍ら、駿から紡がれる言葉は紛れもない事実で、充分理解していてもあかねの胸に静かに突き刺さる。
「正直言って、先のオルディネの姿は想像し難い。だが……俺はそれでも良いと思った」
「どういう意味ですか?」
「君はこう言っただろう。能力や体質は関係ない。ただオルディネに必要と思ったから、俺を選んだと」
駿の言葉にあかねは強く頷く。
「俺も同じだ。能力云々ではなく、単純に君なら悪くはないだろうと思った。それに五指であるジョエルさえ認めるのだから、君には何かあるのだろうと信じている」
「葛城さん……」
所属の理由を聞いて、少しだけ安心する。
「とは言え、実力不足は否めない。その上、君はリーデル候補だ。恥をかかせない為にも、指導している間は、ここに所属する若い異能者達より厳しくさせてもらう」
「はい!よろしくお願いします!」
元気良くあかねが笑うと、駿も少しだけ微笑みを返した。
「君が無事リーデルなれるよう俺も最善を尽くす。協力は惜しまない」
「オレもオレも!あかねがトップになれるようにオレ自身も強くなる!一緒に頑張ろうぜ!」
いつの間にか話が終わったのか、昶が会話に割って入る。
「ありがとう昶。でも私個人としては、山川さんとうまくいってほしいな」
何気ない一言に、昶は一瞬にして顔が真っ赤になる。
「あ、あかね!こここ、声!声デカいッ!!」
「あ、ごめん」
「ほう……朔姫に気があるのか」
自らの口に手を当てるあかねに対し、獲物を見つけたかのようにサングラス越しの目を光らせ、愉しげに呟くジョエル。
「なっ!?ジョエルには関係ねーだろ!!」
真っ赤な顔で吐き捨てるように、否定する昶。
しかしその行為が、ジョエルを煽る。
「フッ……どうやら君は、お嬢さんとは一味違ったからかいがいがある。楽しませてくれた礼に一つ助言をしよう。朔姫はああ見えて天然で鈍い。君の想いに気付くかさえ怪しいが……せいぜい頑張りたまえ」
嘲笑するような物言いに、昶は思わず顔を少し歪める。
「なんかムカつく言い方だぜ。つかそれ助言じゃなくて嫌味じゃね?」
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