桜空あかねの裏事情

黎明館 三階



「随分と早かったね。あかね嬢を追い出したのだから、もっと長引くものかと」

「会談とは言え既に答えは出ていたからな。しかし盗み聞きとは、お前はやはり質が悪い」


話が終わって僅かに言葉を交わし、ジョエルはあかね達から離れ自室へと向かった。
三階まで続く階段を登ると、そこには佇むアーネストの姿があり、微笑みながらこちらを見ていた。
恐らく待ち伏せしていたのだろう。


「そういう性分だからね。仕方ないのさ」


ただ陽の光が差し込む静寂な廊下。
その静けさに浸りながら背後から聞こえるジョエルの物言いに対し、アーネストは階段に腰を下ろして、微笑みを湛えながら、言葉を交わす。


「それにしても、君にしては随分と危ない橋を渡ったね」

「……私の条件に適っている。問題はない」

「条件、ね。確かに二人共、規定能力値は越えてるけれど……タイプ3と事例のない異能者を所属させるなんて、今までの君なら有り得ない事だ。少しばかり、その心境の変化が気になってね」


背を向けたまま、そう答える。
故にジョエルの表情は分からないが、どことなく彼から答える事を拒否するような雰囲気が伝わってくる。


「変化などない。いずれもリーデルになるお嬢さんが、自分自身で考え選んだ者達だ。故に異論はない」

「………なるほど。つまり君も、あかね嬢に甘いのか」


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