桜空あかねの裏事情
「あの少年……香住昶くんの異能は“言霊”。あかね嬢の“模倣”と同等の希少価値があるのと同時に、言葉にした事を現実にしてしまう大変危険極まりない異能だ」
アーネストは座ったまま顔だけ振り返り、視界に入ったジョエルを見据えて言葉は繋げる。
「それを知らないはずの君ではないだろう?」
そう言って笑みを貼り付けたアーネストの真意は、長年の付き合いの中でもいまいち掴めない。
相変わらず本心を隠すのが上手いと、ジョエルは思う。
少なからず縁のあるオルディネの心配も多少はあるのだろうが、彼が聞いているのはその先にある何かだ。
――恐らくは、あの事だろうが
――話を聞いて引き出すか。
自身の思惑を悟られないよう、サングラスを掛け直しながら再び口を開く。
「そうだな。しかし手懐ければ、このオルディネの重要な戦力の要になる事は間違いない。それにお嬢さんがいる限り、彼はお前が思っているような事をしないはずだ」
断言すれば、アーネストは愉しげに口元に笑みを浮かべた。
「君にそこまで言わせてしまうあかね嬢は、やはり全てにおいて魅力的だ。だからこそ、余計に気になってしまう」
ジョエルは静かに耳をすませる。
「君にとって、彼女は一体何なのか………ね」
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