桜空あかねの裏事情

――やはりそれか。

ジョエルは心の内でそう呟き、表情を崩す事なくアーネストに応える。


「以前も似たような事を聞いてたな」

「そうだったかな。最近の君を見ていると、なんだか危なっかしくて、ついね」

「ほう……」

「君は気に入ったモノに執着し過ぎるだろう。そしていつしか絶望した時、子供が玩具に飽きて投げ捨てるように、容赦なく切り捨てる」

「当然だ。見込みのない物に期待をしてどうする」

「だからこそ心配なのさ。君ではなく、あかね嬢が」


再三聞いたようなその言葉に、ジョエルは呆れたように溜め息を一つ零す。


「いきなり何を言うかと思えば……お嬢さんがリーデルであり続ける限りは、切り捨てはしない」


言い終えるとジョエルは、立っている事に疲れたと言わんばかりに壁に寄りかかる。


「今日のお前は、何が言いたいのか理解し難い。お嬢さんは年端のいかない小娘だ。そんな小娘に執着してるお前も、人の事を言えないと私は思うが」


呆れたながら呟くと、アーネストはパタリと唐突に笑みを消す。


「……本気で言ってるのかい?」

「本気もなにも、今日のお前の言動はいつも以上に理解出来ない。それだけだ」


.
< 371 / 782 >

この作品をシェア

pagetop