桜空あかねの裏事情
――やはりそれか。
ジョエルは心の内でそう呟き、表情を崩す事なくアーネストに応える。
「以前も似たような事を聞いてたな」
「そうだったかな。最近の君を見ていると、なんだか危なっかしくて、ついね」
「ほう……」
「君は気に入ったモノに執着し過ぎるだろう。そしていつしか絶望した時、子供が玩具に飽きて投げ捨てるように、容赦なく切り捨てる」
「当然だ。見込みのない物に期待をしてどうする」
「だからこそ心配なのさ。君ではなく、あかね嬢が」
再三聞いたようなその言葉に、ジョエルは呆れたように溜め息を一つ零す。
「いきなり何を言うかと思えば……お嬢さんがリーデルであり続ける限りは、切り捨てはしない」
言い終えるとジョエルは、立っている事に疲れたと言わんばかりに壁に寄りかかる。
「今日のお前は、何が言いたいのか理解し難い。お嬢さんは年端のいかない小娘だ。そんな小娘に執着してるお前も、人の事を言えないと私は思うが」
呆れたながら呟くと、アーネストはパタリと唐突に笑みを消す。
「……本気で言ってるのかい?」
「本気もなにも、今日のお前の言動はいつも以上に理解出来ない。それだけだ」
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