桜空あかねの裏事情

捨てるように言えば、これ以上は話す事もないと、ジョエルはアーネストに背を向けて自室へと続く廊下を歩き出す。


「私は……」


何か言おうとしてるアーネストの呟きを気にもせず、自室のドアノブに手をかけた。


「私は、あの事を忘れたわけではない」


その言葉に動きが止まる。
そしてゆっくりと顔を向ける。
ジョエルの目に映ったのは、彼にしては珍しく悲しげな悔しげな、険しい表情。


「…………そういう事か」


それを見て一瞬にして彼の意図が分かったのか、ジョエルは皮肉な笑みを浮かべてアーネストを見据えた。


「あれから何年経っている。そんなにも由季が大切だったのか?」


明らかに馬鹿にしたような口ぶりと懐かしい名前に、アーネストは僅かに反応を示すが、表情を崩すことはない。


「君よりはね。数少ない心許せる相手だった」

「まぁ確かに、仲は良かったな」

「そうだね。だがそれは君も同じだろう。由季もまた――」

「黙れ」


突如強い口調で遮られる。


「あれはまがい物だ。勘違いするな」


明らかに殺気を含んだ鋭い眼差しで、睨み付けるジョエル。


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