桜空あかねの裏事情
入り口付近から割り込むように声が聞こえ、視線を向ければ優雅に微笑むアーネストの姿があった。
「相変わらず愛らしいね。あかね嬢」
「そういうアーネストさんこそ、相変わらず結構な面構えで」
「ははっ。もう少し違う言い方をしてくれると、嬉しいのだけれど……」
悪びれなく言ってのけるあかねに、僅かに苦笑しながらアーネストは諭すが、意味が無いという事は分かりきっているので、強調する事はしなかった。
「あなたがこの時間にいるのは、珍しいな」
「今日は予定がなくてね。それにしても、君は変わらず真面目だね。もう少し肩の力を抜いたらどうだい?」
屋敷にいる事が少ないアーネストを不思議に思ったのか、駿が尋ねると彼は茶化すような物言いをする。
「断る。生憎俺は、彼女を一人前の異能者にして、いらぬ恥をかかぬよう指導している最中だ」
寄る辺もない返答に、彼は愉しげに笑った。
「律儀な解答をどうも。冗談で言ったつもりが思いの外、真面目に返されてしまった」
「そうだったのか?」
冗談だと微塵も思わなかったのか、目を瞬かせる駿。
「……どうやら駿は、オルディネには珍しいタイプのようだね。真面目で礼儀正しく、少し天然。そこをジョエルに付け込まれなければいいけど」
ジョエルのような皮肉ではないにしろ、ありのまま思った事を話し終わると、アーネストはあかねに近付く。
「さて……そんな駿に申し訳ないのだけれど、あかね嬢を少々お借りしてもいいかな?」
「彼女を?」
「うん。実はね、彼がようやく意識を取り戻したんだ」
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