桜空あかねの裏事情

黎明館 三階



「ちょっと待って。今なんて?」


驚きを含んだ眼差しで、あかねは目の前に立つ男を見た。


「あの男に関わるなと言ったんだ」


泰牙と僅かに言葉を交わし、アーネストと部屋を出て階段付近まで歩いて行くと、何やら険しい顔つきのジョエルの姿があり、話があると言われ付いてきて第一声がこれだった。
あかねは隠すことなく不快感を露わにする。


「いきなり何言って――」

「あれは君も知っての通り、お尋ね者だ。仲間にでもすればアヴィドに目を付けられ、仲間集めどころではなくなるのがオチだ。怪我が治り次第、すぐにでも追い出す」

「何で!?そんなの」

「嫌か?最悪の場合、死人が出ると言っても?」

「ジョエル」


責め立てるような物言いを、アーネストが名前を呼んで制止すれば、既に気分を害しているジョエルは噛みつくように睨んだ。


「アーネスト、お前もお前だ。何を企んでいるつもりか知らんが、お嬢さんに過度な期待を持たせるな」

「企みなんて人聞きの悪い。ただ可愛いあかね嬢のお願いを聞いてあげただけさ。それに彼自身はそこまで忌避するような人物ではないと思うけれど」

「個人の性質など聞いていない」

「では何が駄目なんだい?もしこちらで保護したなら、アヴィドは君や御三家の子息子女がいるというだけでも警戒し、迂闊に手を出せなくなる。運が良ければ、協会だけでなく御三家からも擁護される。それはあかね嬢をリーデルの座に就かせた上で、オルディネを存続させたい君には願ってもない好条件じゃないかな?」


普段からどっち着かずで、曖昧にはぐらかしたりするアーネストにしては、珍しく反論する姿勢を取って応える。
それに負けじと彼も冷静に言い返す。


「必ずしもそうなるとは限らない……この前もそうだったが、何故そこまでお嬢さんを擁護する?」

「簡単だよ。私はあかね嬢にとても興味があるからさ。あかね嬢が歩む道のりとその行き着く先が見てみたい。君が抱いてるものとよく似ているだろう」


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