桜空あかねの裏事情
部屋のドアが閉められた途端、今までのやり取りが嘘だったように静寂に包まれ、昶は一人考え始める。
――結祈はジョエルに言われなくても、自分がすべき事を理解していて、それを行動に移している。
なら……オレに出来る事は何だろう。
ジョエルのように屈指の異能者でもなければ、朔姫のように小さい頃から異能の訓練をしていたわけでもない。
つい最近、その力を使えるようになっただけの少年。
それが今の香住昶だ。
――捕まったあかねを助ける事が、なにより最優先すべき事。でもただ助けたいと思うだけじゃ、何にも変わんねぇ。
かと言って、むやみやたらと屋敷に侵入して助けた出そうとしたって、今のオレじゃ無理だ。というか無謀過ぎる。下手したら死ぬ。
「ハァ……どうすりゃいいんだか」
そう呟くと、不意にドアが開いた。
「昶」
「湊志さん!」
名前を呼べば、湊志は嬉しそうに笑った。
「目が覚めたんだね。良かった」
「心配掛けちゃったみたいで……すみません」
「いいんだよ。僕が勝手にしてたんだから。はい、これジョエルから頼まれたコーラ」
持ってきた飲み物を渡すと、昶は受け取って一口飲む。
「ふぅ……ありがとうございます」
「どういたしまして。結祈から聞いてるけど、体は大丈夫かい?」
「大丈夫っすよ。気絶してただけだし」
「なら良かった。でも、何だか浮かない顔をしてるね」
「そうっすか?」
「うん。君は分かりやすいから」
そう言って昶の隣に座る。
「あかねちゃんの事かな?」
「んー…まぁ半分は」
「半分か。君はいつも色んな事考えてるね。疲れない?」
「少し……でも考えて自分なりにでも答えを出さないと、何だか落ち着かないっていうか」
「そうかい。なら仕方ないね」
そう言ったきり湊志は口を閉じた。
再び静寂が訪れるが、不思議とそれは嫌じゃない。
.