桜空あかねの裏事情
無理に聞き出そうとせず、聞きたいと思わず、相手から話してくれるまで何も言わない。
彼のさり気ない気遣いが、優しく温かいものであるという事を、昶は彼と出会った幼い頃から知っている。
異能者である事に、他人に対して臆病になっていた時でさえ、心を許していた湊志に打ち明ける事は難くない。
少しだけでも話してみようかと思った時、静寂を破ったのは意外にも湊志だった。
「あのさ」
「はい」
「例えばだけど……一人で知らない場所に行ってさ、地図を無くして道に迷った時、昶はどうする?」
脈絡のない質問を投げられ、場違いと思うほどに違和感を覚える昶。
しかし湊志なりに思うことがあるのではと考え、口を開いた。
「そりゃあ……人に聞くと思いますけど。ここどこですか?とか、ここに行きたいんだけど、どう行けばいい?とか」
そう答えると、湊志はどこか満足げに笑った。
「そっか。君は頼る事が出来るんだね」
「出来るっつーか……そういう場合は、普通に頼りません?」
「んー僕は無理かな。こう見えて意地っ張りだから」
言われてみれば、そんな気がする。
というより、この人は迷ったり悩んだりするのだろうか。
悩むどころか、むしろ行き当たりばったりで勝手に解決するのだろうと、昶は思った。
「僕は一人で物事を考えて進めちゃうけど、昶は手を取り合う事が出来る。それはとても素敵な事だと思うよ」
「はぁ……ありがとうございます?」
話の意図が掴めないが、誉められているのは分かるので、感謝の言葉を述べれば、湊志はどこか愉しげに笑って、部屋から出て行った。
「湊志さん……結局何が言いたかったんだ?」
呟いたのも束の間、再び扉が開く。
「入ってもいいかしら?」
そう尋ねて入ってきたのは朔姫で、昶を見るなり安心したように僅かに微笑んだ。
.