桜空あかねの裏事情
某所
随分と長く時が経った気ががしていた。
実際にどのくらい時間が経過しているのか分からないが、窓辺から差す月光がそう告げている気がする。
突然現れた男に口を塞がれた後の記憶は断片的で、はっきりと覚えているのは最後に視界に映った朔姫だけ。
その後の記憶は全くない。連れて来られるうち、いつの間にか気を失っていたのだろうか。
ふと気が付くと、あかねは見知らぬ部屋にいた。
「………」
ゆっくりと体を動かす。
特に拘束されているわけではないようだ。
何故だか頭がふらつき、多少ながら吐き気もする。
それでもあかねはどうにか体を起こした。
「……ここは」
自分のいる場所を確認する。
何の変哲もない、どこにでもあるような和室だった。
生活感はないが、掃除はしているのだろうか。
湿っぽくも埃っぽくもない。
それと同時にここが、まったく覚えのない場所である事を思い知らされる。
反対側を巡らすと、ドアがある。
鍵は掛かっているのだろうか。
あかねは足音を立てずに近付いて、ドアノブに手をかける。
少し力を入れるだけで扉は開いた。
「………」
開いたドアの隙間から、部屋の外を見る。
黎明館とは対照的な和装の廊下。
この部屋と同様、辺りは静まり返っていて、音もなければ人の気配もない。
一定の距離を保って連なる灯りが妙に存在感を突き付ける。
そんな事を思いながら、あかねは思い切って廊下に足を踏み入れる。
長い廊下。
振り返れば、最奥には階段がある。
そして自分がいた場所以外にも、部屋があるのだろう。
いくつかドアがある。
試しに一番近くにあったドアに手をかけるが、開かない。
どうやら鍵が掛かっているみたいだ。
確認すると、警戒するように再び辺りを見回す。
やはり人の気配はない。
――何の為に私を連れて来たのだろうか。
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