桜空あかねの裏事情

率直に浮かんだ疑問だった。
自分はまだリーデルだと認められたわけでも、公表されたわけでもない。
厳密に言えば、チームに所属してもいない無所属の異能者である。
能力はジョエル曰く希少みたいだが、はっきり言ってまだ使い物にはならない。
そんな自分を捕まえて、果たして利点はあるのか甚だ疑問だった。
また駿やアーネストが言っていた未成年の異能者の誘拐かと思いもしたが、部屋に鍵が掛かっていなければ、何かに拘束されているわけでもない。
自分を連れてきた男も、傷付けたりはしないと言っていた。
その言葉を信じるならば、辻褄が合わなくなる。


――帰らなきゃ。


相手の目的も分からない。
この場所が黎明館とどのくらい離れているのか、ここがどこなのかも分からない。
けれど、ずっと立ち止まってるわけにはいかない。
自分にはすべき事があるのだから。

あかねは深く息を吸い、口を引き結び、背筋を伸ばす。
そしてなるべく音を立てないように、階段を降りていく。
半分ほど降りて、陰から下の階の様子を窺う。


「………」


ほぼ上の階と同じ造りだが、窓がある。
人がいない事を確認すると、階段を全て降り窓辺に駆け寄る。
見えたのは、妙に高さのある塀と広い坪庭で、外の景色を見る事は適わなかった。
更に下に行こうと、階段の方へ戻ろうと、角に差しかかったときだった。
突然、先に角を曲がって現れた女の姿に、あかねの足が止まる。


「……っ」


隠れる間もなかった。
艶がかった腰まである小豆色の髪の、二十代そこそこの女が、あかねをじっと見ている。


「お目覚めでございましたか」

「………」

「今宵の月は何故か眩しく感じられる。きっと……貴女の存在がそう思わせるのでしょう」


女は驚くどころか、笑みを浮かべてそう告げた。
艶がありながらも鈴のような声は、不思議と耳に残る。

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