桜空あかねの裏事情
どこか儚げな雰囲気を漂わせて、こちらを見つめる翡翠の瞳と、白い肌に形の良い唇。
何もかも整い過ぎているその容姿に、あかねでさえ魅入られそうになる。
「……ここは?」
「アロガンテの屋敷です」
「あなたは?」
「私は黒貂と申します」
「こく…ちょう…?」
名を聞き返すと、黒貂は頷く。
「はい。一応、貴女様の主となります」
「へ?」
「詳しい事は私のお部屋で。さ、こちらへ」
黒貂は舞い踊るように、歩き出す。
今のやり取りからして、敵とは思えなかったが、味方とも思えない。
だがこの状況から進むには、彼女に従うのが最善であり、あかねは内心迷いながらも後に続く。
階段を降りて、角を左に曲がり、その先へ進んでいくと反対側から微かに声が聞こえる。
黒貂はそれを気にする事なく進んで行き、ある一室へと入っていく。
あかねも続いてその部屋へ入ると、そこは荷物置き場なのだろうか。
端に荷物らしきものが積まれている。
「ここならば、見つかる事はないでしょう」
周囲に気を配りながら、そう呟く黒貂に、あかねは思わず首を傾げる。
その様子に、黒貂は少しだけ微笑む。
「手をお出し下さいませ」
言われるがままに右手を出せば、黒貂はしなやかな手付きで、あかねと手を繋ぐ。
「っ」
その瞬間、景色が変わった。
月明かりは一転して煌々とした灯りとなり、唐突に充てられた眩しさに目を細める。
「ここが私の部屋で御座います」
その言葉に周囲を見回す。
一人の部屋にしては十分過ぎる広さに、絢爛豪華な調度品が取り揃えてある。
また香を焚いているのか、鼻にこびり付くように匂う。
「立ち話では申し訳ないので、まずはお座り下さい」
「……」
あかねは黙って椅子に座る。
その姿に黒貂はただ笑みを浮かべる。
.