桜空あかねの裏事情


オルディネの事、リーデルの事。
そして泰牙の事。

私には何よりも優先し、考えなければならない事があるのだ。
こんなところにはいられない。


「分かっております。貴女様は、本来このような所にいてはならない事を」


まるで最初から、そう言う事を分かっていたような物言いに、あかねは眉を顰める。


「…どういう意味?」

「存じている、という事です。桜空あかね様」

「っ!」


名乗っていないはずなのに、自身の名を言われ、不安と焦燥感で全身が強張っていくのを感じる。

――本当に私を知ってるんだ。
まさかリーデルの事も。

口を堅く結び、再び警戒し始めるあかね。
しかし黒貂は、その様子を気に止めるどころか、頭を深く下げた。


「申し訳御座いません。御三家である桜空家の息女にして、他チームの重要人物である貴女様に、このような非礼を……本来ならば、許されざる所業で御座います」


唐突に謝罪を述べる彼女に、あかねは思わず動揺してしまう。


「こ、黒貂さん?」

「貴女様を必ずオルディネへ、お帰し致します。ですから――」


あかねの呼び掛けを無視して、更に言葉を続ける。


「少し……ほんの少しの間、付人として、私のお傍にいて下さいませ」

「…………」


今にも泣きそうなほど、悲しそうに微笑む黒貂。
まるで訴えるように、縋りつくような懇願に、あかねは思わず言葉を失う。
この人は何故、そんな表情をするのだろうか。
罪悪感からか、それとも違う何かか。

黒貂を見据えたところで、明確な答えを見つける事は出来ない。
それよりも、唐突に突きつけられた現実と懇願に、自分はどう応えるべきなのか。
ジョエルにオルディネの事を突き付けられた時を思い出しながら、あかねはまた悩むのだった。


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