桜空あかねの裏事情
「………」
だが何故か、黒貂は少し俯き黙ってしまう。
何か気に障るような事でも言っただろうか。
控えめに様子を伺っていると目が合い、彼女は困ったように笑った。
「どうなのでしょうか……お恥ずかしながら、限られた者達としか接しておらず、この部屋からあまり出る事がないので」
「…どういう事?」
「そのままの意味です」
黒貂は更に言葉を紡ぐ。
「私は、生まれて間もなく両親を亡くし、当時アロガンテのリーダーだった叔父に引き取られました。しかし当時は他チームとの諍いが激しく、身を案じた叔父は、私にこの部屋から出る事を禁じました」
「それって……閉じ込めたって事?」
「悪い言い方をすれば、その通りでしょう。ですが、外をただ歩くだけで殺されるかも知れない当時の状況からしてみれば、仕方がなかった事なのです。それに私は、外の世界がどんなものか全く知らなかったので不満はなく、むしろ感謝しています」
チーム同士の対立。
現在は私闘禁止の規則や協会からの監視が厳しく、目立った事はない。
だがほんの十年ぐらい前まで、“裏切りの日曜日”が起きるまではよくある事だったと、藍猫に訪れた時に瀬々がそのような事を言っていたのを思い出す。
どのような意図で諍いがあったかは分からないが、恐らく当事者であった黒貂の叔父は、自身が狙われていた事ぐらい分かっていたはずだ。
故に血縁者である黒貂も、危険に晒される可能性があった事を当然ながら知っていたのだろう。
「叔父は争い事を好まずとても優しく、私を慈しみ、実の娘のように可愛がって下さいました。彼が私を守って下さったからこそ、このように貴女様と話す事が出来るのだと思います」
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