桜空あかねの裏事情


「そっか。あなたにとって、大切な人なんだね」

「はい。孤独だった私に、愛を教えて下さった方です。けれど……」


そう言いかけて、優しい笑みが少しずつ悲しみに翳っていく。


「そんな叔父も、五年前に病で他界してしまいました」

「………」

「それにより、唯一の血縁者である私が、アロガンテのリーダーとなりました。それからは、この屋敷を自由に行き来できて、初めて外に出る事もできました」

「初めて見た外の世界はどうだった?」


アロガンテのリーダーであるという事実を聞き、内心驚きながらも、差して気に留めてないように装い、あかねは問い掛ける。


「とても素晴らしかったです。目に映る全てのものが新鮮で、こんなに素敵なものが沢山あるのだと実感しました。その時まで、この空間だけが私の世界でしたから」


普段のたおやかで綺麗な笑みではなく、少女のような無邪気な笑みを浮かべる黒貂。
そんな姿を見て、あかねは安心したように優しく微笑む。


「長く話し込んでしまいましたね。それに私の事ばかり…」

「ううん。むしろ話してくれて良かった。黒貂の事をもっと知れたから」


話し相手として、黒貂と多く言葉を交わしてはいるが、その全てはあかねが一方的に話しているだけで、黒貂自身の話どころか何も語らず、ただ耳を傾け聞いているだけだったのだ。
だから自身の事を自ずと話してくれて、あかねは素直に嬉しかった。


「貴女様は本当にお優しい。その言葉一つ一つに、私は癒されます」

「ははっ大げさだよ。私は思った事を言ってるだけだから………あ」


そう言い笑っていると、不意に腹から空気を読まない派手な音が聞こえる。
一瞬、何が起きたか分からなかったあかねだが、すぐに空腹であった事を思い出す。
更にそれを知られ、腹の音まで聞かれてしまったという羞恥から膠着していると、黒貂は僅かに肩を震わせ笑い声を零した。


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