桜空あかねの裏事情

「その方達は幸せですね。あかね様にそう想われていて」

「そうかな?」

「ええ。羨ましいくらいに」

「え?」


呟かれた言葉にあかねは聞き返すが、黒貂はただ笑みを零し答えようとはしなかった。


「きっとその方達も、貴女様の事を大切に想ってらっしゃるのでしょうね」

「うーん。そうだったら嬉しいんだけど……」


――陸人さん辺りは、絶対よく思ってないだろうなぁ。
あかねがリーデル候補となって、すぐに実家へ帰ったりして言われなくとも分かるほどに、陸人の意志は徹底していた。
館へ帰ってきた後も、それは変わらず、最低限の言葉しか交わさない。
気に食わない上に、煙たがられているのは明白だった。


「私を気に入らない人もいるから、ちょっと分からないかな」

「そうなのですか?」


黒貂は不思議そうな表情を浮かべる。


「うん。あとケンカしてる人もいるし。ちょっと悲しいけど、仕方ない事なんだ」


今はリーデルとしての実力を示して、認めてもらうしかない。
だけどその先で、今より少しだけ。
僅かでも歩み寄れたらいいと、あかねは密かに願っている。


「ですが…その方達もきっと、貴女様がいない事を心配していると思います」


少し寂しげなあかねを見て、気遣うように言葉を掛ける黒貂。


「本当は一日でも早く、貴女様をオルディネへ帰して差し上げたいのに、私にはそれが出来ません」


自分の付き人という単純過ぎる理由で、無理矢理連れられてきた事を、申し訳ないと思っているのだろう。


「気にしないで。あなたが連れて来たわけじゃないんだから」

「そうは仰いますが、恋しいくはありませんか?」


恋しい。
何故かその言葉だけが、胸に残る。
思い返せば、ここに来てから色々な事を考えていたが、いつも頭の片隅にあったのは、不安や家族ではなく、彼等だった気がした。


「…そうだね。本当は早くオルディネに……みんなのところに帰りたい」


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