桜空あかねの裏事情

――昶や朔姫はきっと、私の事を誰より気にかけているに違いない。
――ううん。二人だけじゃない。
――結祈やアーネストさんだって、何かしら行動しているかも知れない。
――もしかしたら、ジョエルも。


「だけどね、あなたは……黒貂は、私を必ずオルディネへ帰すと約束してくれた。だから私はまだ、ここにいられる。あなたを信じているから」

「あかね様……」

「大丈夫だよ」


そう言ってあかねは、ただ屈託のない笑みを向ける。その反面、黒貂は驚いた表情を浮かべて、困ったように笑った。


「お強いのですね」

「そんな事ないよ。異能だってろくに使えないし、向き合わなきゃいけない相手から逃げたりしてるし」


槐の事が脳裏に蘇り、苦笑して言葉を続ける。


「それでもみんなは、私を支えてくれる。辛い時、傍にいてくれる。だから信じているの」


――それが私の力になる。


「黒貂には、そういう人いる?心から信じられる大切な人」

「私の…大切な方…」


あかねの問い掛けに、黒貂は繰り返すように呟いた後、何故か俯いた。


「黒貂?」

「…私にはおりません」


笑っているような泣いているような、何とも言えない表情ではっきりとそう告げた黒貂。
触れてはいけない事だったのかと思うあかねだが、その表情の理由が気になり、思考を巡らせながら、さり気なく聞いてみる事にした。


「そう……でも矢一とかオーナーは、あなたの事を大切に思ってそうだけど」

「確かに矢一は、私にとてもよくして下さいます。常に気に掛け、時には気分転換として、内密に外へと連れ出して下さったり…」

「なら」

「ですがそれは、私が則義様の愛妾であるからなのです」


「あい…しょう?」


知らない名前と単語を呟きながら、僅かに眉を顰める。


「簡単に言えば、愛人ですわ」

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