桜空あかねの裏事情

「あ……そ、そうなんだ。じゃあ則義様っていうのは」

「はい。言いそびれていましたが、則義様はこのアロガンテのオーナー……つまりは、貴女様をここへ連れて来させた元凶です」


告げられた事実に、あかねは身が強張るのを密かに感じた。


「どんな人?」

「人によって抱くものは少なからず異なるかと思いますが、私からすれば自分さえ良ければいい。他者を物のように扱う方、と存じております」

「…へぇ」

「ですので、お心を許す必要はありません」


確かに身近な人にそう言われてしまう人物と、あかねは自ずと仲良くしようとは思わない。


「でも…そう言っちゃっていいの?」

「どういう意味でしょうか?」

「愛人って事はその…恋人、でしょ?」


そう問えば、黒貂はただ笑みを浮かべる。


「……ええ。それが本心ですので」

「………」


本心という事は、恋人であるその男を好いていないという事なのだろうか。
彼女の口から出たのは曖昧な答えばかりで、断定は出来ない。
様子を見ながら、手を動かせばスプーンが空を振る。
見ればオムライスはもうなかった。
どうやら話を聞きながら、完食してしまったようだ。


「ふふっ。話が長くなってしまいましたね。貴女様とお話すると、何故だか心が弾み言葉が溢れます。あ、お皿をこちらへ。片付けます」

「ありがと。私もこの部屋から出られないから、あなたと話すのはすごく楽しい」

「それは良かった」


食器を片付けようと奥の台所へと歩いていく黒貂。
その背を見送り、あかねは天井を見上げる。


「今日は、なにしようかなぁ……」


そう呟いたと同時に、時刻を知らせる鈴が鳴る。
その音に耳を傾けて数えていくと、十四回目を最後に聞こえなくなった。
現在の時刻は午後二時だと判明する。
普段の自分なら今頃、五限の授業真っ只中だ。
そんな事を思っていると、徐々に学校の情景が脳裏に過ぎる。


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