桜空あかねの裏事情
黒貂と則義が部屋から出て間もなく、言った通り矢一がやってきた。
相変わらず檻のような空間だが、その中で彼と二人きりなのは初めてで、どこか新鮮だった。
「オーナーから話は聞いている。黒貂様が帰ってくるまで、我が相手をする」
「うん。よろしく」
いくら主の命令とはいえ他チームの、ましてや御三家の者を無理矢理連れて来させた事を、後ろめたく思っているのだろうか。
矢一は何故か、あかねのやや無理がある要望に全て応えていた。
「いつものように何かあれば、応えるが」
矢一はそう言うものの、あかねは特にして欲しい事などなかった。
「んー……矢一はしたい事ある?」
「ない。強いて言うなら、君の見張りだ」
――それ要望じゃなくて、ただの任務じゃ…。
思わずそう言ってしまいたくなるのをなんとか抑える。
――どうせなら黒貂とオーナーの事を、彼に聞いてみようかな。いい機会だしね。
「じゃあ話そっか。私、聞きたい事があるんだ」
「諾。聞きたい事とは?」
「うん。黒貂はオーナーの事嫌いなの?」
「……何故?」
間を置きながらも、矢一は聞き返す。
「さっきのやり取りを見て、なんとなく。オーナーの方は、ビックリするほど好きみたいだけど、黒貂はそうでもなさそうだったから」
「……」
黒貂自身、はっきりと嫌悪の旨を述べていたが、それは聞かなかった事にして、目の前の矢一に問い掛ける。
意外な事だったのか、彼は黙ってしまったが、あかねも何も言わず、どんな答えが返ってくるのか待つ事にした。
「……答える事は出来ない」
思いの外、早く返ってきた答えはそれだった。
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