桜空あかねの裏事情
「私は主と黒貂様に仕える者。確かに他の者より、お二人の事を多少知ってはいる。だがお二人の間の事は、知り及ぶところではな――」
「本当に?」
模範解答とも言えるそれに、あかねは指摘するように疑問をぶつける。
「本当に知らないの?」
「…何が言いたい?」
「何も。ただ初めて見た私がそう思ったのに、長く二人を見てきて知ってる矢一が、何も知らないなんて変だなぁって」
笑みを作って素直に言えば、普段から顔色を変えない矢一が、珍しく気まずそうな表情を浮かべる。
「……生きていく上で、知らなくていい事もある」
「自分を守る為に?」
その問に答えは返って来なかったが、強ち間違ってはいないだろう。
いくらチームに所属し保証されていたとしても、それは完全なものではなく。
その上、あのオーナーが主なら、いつ自分の身が危うくなっても可笑しくはない。
「自分を守る事は、悪い事じゃないと思うよ。それが、見て見ぬふりをする事でもさ」
きっと矢一は、黒貂の本心に気付いてはいるのだろう。
それと同時に、身の振り方も。
だから何も出来ない。
――だけど。
「私は無理かな。一度関わってしまったら、無視なんて出来ない。ましてや助けて欲しいと言われたなら、尚更…」
オルディネの時は、ジョエルの思惑に嵌められたようなものだが、断る事だって出来た。
それが出来なかったのは、単純に放っておけなかったからだ。
そしてそれは黒貂にも言える。
彼女は普段、優しく微笑む。
けれど時に、泣きそうな笑みを浮かべたり、困ったように笑っていたりする。
何故か気になって、どうしてそんな表情をするか知りたくなって。
誰にも打ち明けず、何かを独りで抱えている彼女を、放っておけないのだ。
「黒貂様は、助けて欲しいと……言っていた?」
「言ってないよ。全部、私の憶測。でも半分ぐらいは当たってるはず」
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