桜空あかねの裏事情

矢一に頼まれた荷物を運び終わり、黒貂達のところへ戻るとそこには、二人以外に則義の姿があった。
彼はあかねの存在に気付くと、付人の装いを一瞥して、馬子にも衣装などと吐き捨てるように言った。
その尊大な物言いに、あかねは腹が立ちつつも、なんとか心の内に収めて笑みを貼り付けることで、その場をやり過ごした。
それから間もなくして、いよいよ闇市へ赴く事になったのだが、唐突に景色が変わる。
あまりにも瞬間的な出来事に、状況を理解するのに若干混乱するも、矢一の能力である【瞬間移動】で移動したということに気付くのに、そう時間は掛からなかった。


「……」


前を歩く則義と黒チョウに続いて着いたその場所は、どこかの会場のように広く思いの外、人が多く賑わっていた。
異能者の売買など公では決して出来ない非道徳的な事を行うのだから、人知れずひっそりとしたものだと思い込んでたあかねは、目の前の光景に僅かながらも動揺する。

――こんなに人が……見つけられるかな。

心の端で気付かぬふりをしていた不安が、少しだけ影を落とす。

――……大丈夫。絶対に見つけてみせる。

不安に支配されそうになる自分にそう言い聞かせて、頭を振ってそれを振り払う。


「………あれ?」


顔を上げると、前を歩いていたはずの黒貂達の姿がいつの間にか消えていた。
考えてる間に先に行ってしまったのだろうか。
あかねは急いで周囲を見渡すが、人が多くなかなか見つける事が出来ない。


「ど、どうしよ」


徐々に焦燥感に襲われ始める。
それでも更に奥へと進もうと歩き出すが、唐突に背後から肩を掴まれる。
驚いて勢い良く振り返ると、そこにいたのは見知らぬ男だった。


「大丈夫かい?さっきから辺りを見回してるけど、もしかして迷子かい?」

「あ、いえ……違います」


心配そうにこちらを覗き込む男。
そこそこ端整な顔立ちで紳士的な振る舞いだが、あかねは何故か直感的に嫌悪を抱き、視線を逸らす。


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