桜空あかねの裏事情
そんな彼の様子を見た後、アーネストはそう言葉を返した。
責めるようなことも咎めるようなことも口にせず、相も変わらず微笑みを向けるだけだった。
「ただ一つ言うとするなら、それは私に言うべき事ではない。あかね嬢を無事救出したら、彼女に君の気持ちを正直に話さなければならないよ」
「うーん。やっぱりそうなるかぁ。あかねちゃん、納得してくれるかな?」
「大丈夫さ。彼女は我が強いけど、物分かりもいい娘だから。でも恐らく……ふふ」
突然の含み笑いに、泰牙は思わず顔をしかめる。
「な、何その言い方?悪い予感しかしないんだけど」
「そんな事ないさ。ただ単純に、どんな展開になるのか実に楽しみだな…と」
劣勢を覆すのも一つの醍醐味だからね。と言葉を付け足して、アーネストは裏道から足を踏み出す。
月明かりに照らされた彼の栗毛色の髪は、うっすらと光を帯びて輝いているようにも見え、元から整った顔立ちを更に引き立たせている。
俗に言う優男とはこういうのだと思う傍ら、穏やかな笑みを称えつつも、自身の核心を決して悟らせる事はしない隙のなさを、泰牙は感じた。
「さて…話はここまでにして、そろそろ行こうか」
「そうだね」
今まで見てきたあかねの姿をふと思い出せば、余程の事がなければ何とかやり過ごせているかも知れないと、随分と安直な考えが泰牙の中に浮かんだ。
だが事実そうだったとして、そこに友人や知り合いがいるわけではなく、たった一人でいるのだ。
不安でないわけがない。
今までの自分がそうだったように。
「ああ、そうだ。言い忘れていたけど、あかね嬢は君に本当の事を言おうとしてたんだよ。最初からね」
「へ?」
「でもそうしたら、君は余計な事を考えるだろうから、私が口止めさせたんだ」
「……」
平然と笑顔で言ってのけるアーネストに、泰牙は唖然としつつ冷や汗をかく。
「はは…そうだったんだ」
「可愛いあかね嬢の為さ。罪悪感はあったけれど、今の君を見る限り、どうやら間違いではなかったようだ」
前言撤回。
隙がないどころか容赦ない。
先を歩くアーネストに畏れを抱きながら、泰牙は大きく一歩踏み出した。
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