桜空あかねの裏事情
あかねの返事に、矢一はまた少しだけ笑みを浮かべると、再び歩き始め階段を数段上がる。
最初に目に入ったのは、いくつかの椅子とテーブル。
空席もあるが座っている人達は、飲食をしていたり寛いでいたり、会話を弾ませていたりと三者三様であった。
彼等を見る限り休憩所なのだろうか。
そんな事を思いながら再度辺りを見回すと、少し奥で黒貂の姿を見つけた。
駆け寄ると彼女は嬉しそうに微笑み、あかねに隣にある椅子に腰掛けるように促す。
頷いて促されるまま座ると、黒貂は僅かばかり詰め寄り話し掛けてきた。
「矢一とご一緒だったのですね。どうでしたか?」
「思ったより人が多くてビックリしちゃった。早く見付かればいいんだけど」
安堵したような声色で尋ねた黒貂は、恐らくはぐれていた事など知らないのだろう。
あかねは笑みを張り付けて、そう答えた。
「そうでしたか。ここなら上階ですし、見渡しも良いので、きっと見つけられますわ」
「うん」
確かに黒貂の言う通り、会場を上から見下ろす事が出来て捜しやすくはなっていた。
だが人が多いのは変わらず、あかねは目を凝らしてゆっくりと視線を移しながら探し始めた。
「うーん……」
そうしてからどれくらい経ったのだろうか。
あかねは一向に昶達を見付ける事が出来ず、更には先程よりも人が増えて、嫌気が差し始める。
「あかね様、少し休まれてはいかがですか?」
隣に座る黒貂に諭され、これ以上捜し続けても疲弊するだけだと、あかねは一旦捜すのを止めて座り直す。
「どうか気を落とさないで下さいませ」
「うん…」
相槌を打つものの、もしかしたら彼等は来ていないのではないかと不安な気持を拭えない。
「もしかしたら、他の会場にいるのかも知れません」
「そうだといいんだけど……」
一縷の望みに賭けているのは理解しているものの、あかねは知らず知らずのうちに溜め息を零す。
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