桜空あかねの裏事情
それを聞いて、あかねは泰牙を見上げる。
泰牙は笑みを貼り付けたまま、落ち着いた声で話し始めた。
「俺はかつてチーム・スフォルトゥナを作り、勢力を築き上げてきた柳一族の傍系で、直系の血を引く二ノ姫様の付人をしていた。異能は発現したばっかで使えなかったけど。だけど、俺の生家はもうこの世にない。アヴィドとの抗争に破れて領土を奪われ、一族はほぼ皆殺しにされたからね」
あかねや昶は知らなかったが、異能者社会の世情に通じていれば誰でも知っていることだ。
柳一族の悲劇。“裏切りの日曜日”
泰牙でさえ、あの日までは争いなんてものは遠くで起こっていて、自分には無縁な出来事だと思っていた。
それ程までに無知で、不自由なく幸せに生きていた。
「俺が十四歳の時、頭首であった叔父上と三人の従兄上が、沢山の部下を連れてアヴィドと争っていた。けれど叔父上達は争いに負け、皆殺されてしまった。そしてその後、アヴィドの連中は俺の生まれ育った屋敷を襲撃したんだ」
口数は少なかったが、気高く逞しかった叔父上。
傍系だからと言って卑下することなく、実の弟のように可愛がってくれた三人の従兄上。
彼らに守られていたからこそ、泰牙は幸せに生きていたのだ。
そんな彼らの死。
それが始まりだった。
「俺は偶然にも二ノ姫様と共に使いで外に出ていたんだけど、報せを聞いて急いで戻ったんだ。けれど…屋敷はもう血の海だった」
二ノ姫と共に屋敷に乗り込んだ泰牙が目の当たりにした光景は、まさに奈落の底と言える惨状だった。
赤く染まった視界。
悲痛な叫び声と怒りを孕んだ喚き声。
そして使いに出るほんの前まで、当たり前のように話していた見知った、愛しい者達の変わり果てた姿だった。
「助けられたのは、叔母上の侍女とまだ幼い四ノ姫の二人だけで、共に乗り込んだ二ノ姫様の従者もほとんどが死んだ」
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