桜空あかねの裏事情

二ノ姫は泰牙に見るなと言った。
全身でその光景を隠しながら、あなたは何も知らなくていいと。
けれど泰牙は見ていた。
地に伏し、変わり果てた家族の姿を。
振りかざされた凶器によって、倒れていく仲間の姿を。


「それでも道を切り開いて外へ出ると、二ノ姫様は僅かに残った従者と自分が殿になると言って、四ノ姫様を俺に託して、侍女と共に地下道から逃げるように命じたんだ」


泰牙は必死に反対して一緒に逃げる事を訴えたが、二ノ姫は頑として意志を曲げず、抱き抱えていた四ノ姫を泰牙に託した。
四ノ姫は泰牙の服襟を懸命に掴みながら、ただ、がたがたと震えていた。
怯える四ノ姫の頬を両手で包み、二ノ姫は大丈夫よと、いつものように笑っていた。
そして泰牙達を地下道へと押し込んだ。


「四ノ姫様と侍女を気遣いつつ、地下道を通ってようやく抜けると、小さくなった屋敷から火の手があがった。二ノ姫様が火を点けたんだって、すぐに分かったよ」


恐らく二ノ姫は、泰牙と四ノ姫を生かすことを一番に考えた。
そのために自身を囮にして注意を逸らし、追っ手を許さず、火を点けた。
全ては二人を無事逃すために。
そして愛しい者達を屠った連中に報いる為に。
二ノ姫が従兄上達に負けず劣らず勇敢で、愛情深い人であったか、泰牙は誰より知っていた。
その二ノ姫から託されたものを、泰牙は守らなければならなかった。
だから泰牙は、ひたすら走り続けた。


「数時間走り続けて、ようやく親交のあった椿家の領土内に辿り着いた。屋敷の門まで走ったところで、俺は意識を失った。気が付いた時には、布団に寝かされていて……四ノ姫様と侍女も無事だった」



二人の無事に心から安堵した泰牙。
だが生家である柳家は、この悲劇から間もなく七華から外され、事実上の滅亡とされた。


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