桜空あかねの裏事情


共に生き延びた侍女を失った泰牙は、自分にはもうどうすることもできない。
このままでは四ノ姫も自分も、殺されてしまう。
託されたものを守れない。
そう思ってしまった。
そして――。
侍女を失った翌日。
泰牙は四ノ姫を、自分達を献身的に匿ってくれた椿家に託した。
前科のあるアヴィドが、再び七華に手を出すことは低いという目論みもあったが、現時点で泰牙が四ノ姫を託せる唯一の場所でもあったのだ。


「四ノ姫様を椿家に託し、俺は行方を眩ました。今思えばそれは……間違いだったのかも知れない。俺がそうしたことで、本来なら何も関係ない人達が傷付いたり、犠牲になったりしたから」


行方を眩ましたところで、泰牙は孤独になったわけではなかった。
彼を見捨てずにいた友人。
見ず知らずの偶然にも出会った他人。
親切にも泰牙を助けてくれた事すらあったのだ。
しかしアヴィドの連中は、泰牙を見つけて争い、彼らにも容赦なく凶器を振りかざした。


「ようやく気付いた俺は、他人と関わる事を避け、独りでいる事を決めた。色々なところへ逃げては隠れ、それを繰り返して……そうやって今まで過ごしてきた」


そこまで話した泰牙の顔を、あかねはただ見つめる。
変わらず笑みを見せてはいるが、鳶色の瞳はどこか泣きそうに見えた。


「怖いんだ。これ以上、誰かを失うのは。俺は何度も見てきた。大切だった人達や偶然にも俺を助けてくれた他人が、殺されて死んでいくところを。みんな一瞬だった。でもよく覚えている。忘れようとしても、忘れられないんだ」


彼らの笑顔や優しさ、そして温かさを、泰牙は知っていた。
それ故に泰牙自身もまた自分の行いを悔やみ、深く傷付いていた。


「独りは寂しいし怖い。だけど、俺のせいで誰かが傷付く姿を見るより、よっぽどマシに思えたんだ」


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