桜空あかねの裏事情


戸松駅



「ちょっと遅くなっちゃったかな」


駅内の喧騒の中、あかねは呟く。
話し終わった後、蓮も交えて槐の作った昼食を食べた。
得意なだけあって出来映えも良く味も美味で、結祈のそれに劣らないだろう。
互いに連絡先を交換した後、あかねは実家を出てようやく戸松まで戻ってきた。
現在の時刻は午後三時四十二分。
予定より大分時間が過ぎており、あかねは携帯を取り出した。
昶をはじめとするオルディネの面々から、未だ連絡は来ていない。
会議は正午から始まっているはずだが、まだ終わっていないのだろうか。
気になって昶に電話を掛けてみたが、電源を切っているのか繋がらなかった。


「どうしようかな…」


――このまま館に帰る?
――でもまだ終わってないかもだし
――とりあえず、まずは
――ヴィオレットへ行って
――それから館に戻ろうかな。


行き先を決め、あかねは歩き出す。


「あ――」


多くの人が行き交う駅の通路。
そこにある売店の近くに瀬々の姿があった。
見慣れない私服姿だが、灰色がかった銀髪は間違いようがないだろう。
声を掛けようと近付くと、目の前にいる男と何やら話をしていた。
顔はよく見えないが、ジーパンにカジュアルシャツとラフな格好で積極的に話し掛けている。
数分ほどそれが続いて、男が離れたのを機に瀬々に歩み寄って声を掛けた。


「瀬々」

「今度は誰スか~……おおっ!あかねっち!!」


あかねの姿を見た途端、瀬々は目を輝かせる。


「会いたかったッスよ~!俺のエンジェル!まさに夢の通りッスわ」

「夢?」

「あれ?でも昶っちやアーネストさん達がいないッスね。一緒じゃないんスか?」

「うん。今戻ってきたとこだし。これからヴィオレットに行こうかなって」

「あ、じゃあ俺も一緒に行ってもいいッスか?ちょいと頼まれ事されてて」

「いいよ」


あかねは瀬々と共に歩き出す。


「そういえばさっきの人は?」

「さっき?ああ、見てたんスね。あれ俺らの学校の二年ッスよ」

「先輩か」

「しかも俺達と同じ」

「え、そうなの?意外」

「ねー。割と近くにいるもんなんスね」


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