桜空あかねの裏事情


戸松の細道からプラティアへと赴き、瀬々を連れてヴィオレットへ赴いたあかね。
しかし――。



「え……帰った?」


目の前にいる湊志に、思わず聞き返す。


「うん。会議が終わったのは一時ちょっと過ぎだったかな?それから昼食を食べてたから、二時ぐらいにはもう」

「そうですか…」


湊志の言葉にあかねは携帯を見る。
しかし未だ連絡はなく、メールを問い合わせをしても新着は届いてなかった。


――もしかして
――リーデルになれなかったから
――連絡ないのかな。


結果すらまだ聞いていないというのに、思考が良からぬ方向に傾く。


「どこかに寄るとか言ってなかったし、館に帰ってるんじゃないかな。良ければ僕からも連絡しておこうか?」

「い、いえ。大丈夫です」


あかねは咄嗟に首を横に振る。


「わざわざありがとうございます。今日はこのまま館に帰ります」

「また近い内に遊びにきてね」

「はい」


湊志に軽く頭を下げると、あかねは足早にヴィオレットを後にする。


「昶っち達、もう帰っちゃってたんスね」

「そうみたい」


当日に勝手に予定を変更したのは自分だが、せめて場所を移動する連絡ぐらいは出来ないものだろうか。
それともやはり、わざと連絡を入れていないのだろうか。


「瀬々は終わったの?何か頼まれ事があるとか言ってたけど」

「え?あー…そっスね。まぁ、半分くらいは」


不安をかき消すように話しかければ、瀬々からは珍しく歯切れの悪い答えが返って来る。
もしかして仕事の依頼だったのだろうか。
それなら口を挟めることではないと、あかねはそこで追及することをやめる。
それから数分歩いて、プラティアから二人は戸松の街並みに戻る。
相変わらずの賑わいと人通りの多さで、乱れかけた心が少しだけ落ち着いた気がした。


「あかねっちはこのまま帰るんスよね」

「うん。瀬々は?」

「俺は上司と待ち合わせッス」

「そっか。頑張ってね」

「はいッス。じゃ、また明日」


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