桜空あかねの裏事情


「異論がなければ、泰牙をオルディネへ所属させる。彼は今後重要な戦力にもなるからな。こちらとしては有り難い」


まさに鶴の一声と言うようなジョエルの承諾により、泰牙の所属は決定した。
その事実に安心するも束の間、突き刺さる視線を感じる。
その抜け目のなさにアーネストは軽く笑みを浮かべた。


「そんなに睨まなれても困るのだけど」

「ならば何故ここにいる?よもや泰牙の付き添いというわけではあるまい」

「もちろん。話があるんだ。それも君にとっては朗報だよ」

「ほう…」


ジョエルは目を細める。


「私もそろそろ身を固めようと思ってね。丁度いい機会だから、オルディネに戻ることにするよ」


ざわめきが広がる。
しかしアーネストは意にも介さず、ただジョエルを見据える。
目許は見えないが、口元に笑みを浮かべているのだけははっきりと見えた。

――一見、普段と
――何ら変わりないけれど
――思惑通りになって
――喜んでいるんだろうね。
――少しばかりの抵抗とやらを
――してみようかな。


アーネストは笑みを貼り付ける。


「ただし、条件があるよ」

「条件?」


ジョエルは眉を顰める。


「一つ。オルディネに所属しても今まで通り、依頼は続ける。二つ。給料はかつて私が所属していた時と同額でお願いするよ」

「前者はともかく、後者は現状を考えろ。今のオルディネは――」

「私は無理は言ってないはずだよ。それにリーデル空座のオルディネを維持出来た君なら、これくらい容易いだろう?」

「………」

「嫌なら断ってくれても構わないよ。私は大して困らないから」

「………いいだろう。所属したのなら、存分に使わせてもらうだけだ」


皮肉よりか恨み言に近い言い回しで、渋々承諾するジョエル。
口とはい裏腹に不満を露わにする彼の様子に、アーネストは軽く笑って肩を竦めると、再び話を続ける。


「そして最後に。これが絶対条件だ。桜空あかねがリーデルである事。この条件が満たされないのなら、オルディネには入らない」


そうはっきりと告げれば、辺りは沈黙に包まれる。
さり気なく陸人達の様子をを伺えば、それぞれ何とも言えない表情を浮かべていた。
それもそうだろう。
あかねのリーデル就任を反対している彼らからしてみれば利も得もない、むしろ損とも言える条件だ。
ただ首を縦に振ることすら難しいだろう。
当然の反応に、アーネストはもう一つの案を口にする。


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