わたしの魔法使い
会長の目は、千雪…じゃなかった、里村朱里の写真に落ちた。


「心配……ですよね。」


「ああ、心配だ。いなくなって半年、朱里のこと以外考えられなくてな。」


会長は小さくため息をついた。




どれだけ沈黙が続いただろう。

社長の暴力、千雪の正体、行方不明。

僕の理解を遥かに越える、大きな問題。

それを、会長は背負っている。決して大きくない、おじいちゃんの背中で。


僕は考える。

自分に何ができるだろう?

……っていうより、僕、呼び出されたんだった。

呼び出された理由って、何だろう?

千雪の正体を聞かされるためじゃないよね?


「あ……あのー、話って……これだけ……です……か?」


室長がまた眉間にシワを寄せた。

会長も厳しい顔に戻っている。



何だ?


聞くのが怖いぞ。


―と、突然会長が立ち上がり、頭を下げた。

「なっ、会ちょ…」

「中埜くんと言ったね。朱里を…朱里を守って欲しいんだ。」


……はい?



守る……?


「えーっ!守るって!えーっ!」


もう頭の中は大混乱。フリーズ寸前。

こんな話なのー!


守れって!



「中埜くんだからお願いするんだ。……すまないね。君のことも調べさせてもらったよ。…それでも、君にお願いしたいんだ。」

会長はまた頭を下げた。

僕…だから…?

僕のことを調べて…。

僕の、暗闇の時間も、すべてを調べて……

その上で、会長は頭を下げてる。

室長も同じだ。

会長と一緒に頭を下げてる。

こんな平社員に。



「わかりました…引き受けます。でも……僕は出版社の人間です!どこまで守れるか自信がありません…」


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