わたしの魔法使い
言葉につまる私を、颯太は不思議そうに見下ろしている。

そりゃあ、不思議だろうね。

あれだけ集中して打ち込んでるのに、返ってきた答えは“うん……”だけなんだから。


「よかったー!書く気になったんだ!ほんとっ…よかっ……」


見下ろす颯太の目から、ポロポロと涙がこぼれた。

涙を溢す颯太は、私よりも嬉しそうに笑っている。



本当に待っていてくれていたんだ……

私の書いたもの、ずっと待っていてくれたんだ。


それがすごく嬉しい。

待っていてくれたこと。

書き始めた私より、書き始めたことを喜んでくれる。

それが嬉しい!



「――颯太っ!」


私は立ち上がり、俯いて涙を溢す颯太の首に腕を回した。


「あ…朱里……?」

「待っててくれてありがとう。そばにいてくれてありがとう。好きになってくれてありがと!」

「……うん。」



胸の鼓動が聞こえる。

颯太の匂いが鼻をくすぐる。

迷ったように腰に腕がまわされる。


「……颯太……」


首に回した腕を緩めると、半泣きの颯太と視線が絡まる。


このままキス……するのかな……


私はそっと目を閉じた。




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