わたしの魔法使い
遠くではしゃぐ子供たちの声が聞こえる。

その声は楽しそうに笑っていて。

今、私たちを包む緊張した空気とは違う。


「……ここで話す?」

悲しげな颯太の声が耳に届く。


そんな声、出さないでよ。

そんな傷ついた声、聞かせないでよ。


あんなに明るく笑う子供たちの声が聞こえる場所で、そんな声、聞きたくないよ。


「帰ろう……」


それだけ言うと、私はマンションへ向けて歩き出した。









まだ彼女がいたら……

そんな気持ちが足を重くする。

だけど、そんな心配も杞憂に終わった。

彼女を乗せた車はもういない。

今彼女に会ったら……

きっと泣き出してしまう。

颯太の事を教えて欲しいと言ってしまう。

それだけはしたくない。

ちゃんと颯太の言葉で聞きたい。

聞かなきゃいけない。



玄関を閉めると、私は颯太に背を向けたまま声を出した。


「…――教えて。彼女は誰?」

「……」

「そうやって逃げないで。」
「………」

「ずるいよ。逃げないで教えて……」

「……ごめん」


「――!」



後ろから颯太に抱き締められた。

壊れ物を扱うように、そっと優しく……



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