わたしの魔法使い
「……朱里。ごめん…」

夕日が差し込む部屋に、颯太の声が響く。

そっと抱き締められてるだけなのに、その腕をほどく事ができない。


「…離して」

「ヤダ……」


ずっと我慢していた涙が、零れ落ちる。


颯太の腕の中は居心地がよすぎて、苦しいよ。

颯太が好きだから。

彼女の言ったことを信じたくないから。

苦しいよ……


「……彼女、颯太は商品だって。そう言ってた。それって…本当?」

「……」

「……出ていって……」


もうこれ以上聞きたくない。

彼女が誰でもいい。

もう、これ以上知りたくない。

知ってしまったら……

お互いに傷つく。

今までのように、笑えない。



「…――ごめん」


そう言って、颯太は出ていった。




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