わたしの魔法使い
行くと決めてからの行動は早かった。

もう一度地図で確認して、それから自転車に乗って。


颯太が来てすぐに買った、あの赤い自転車。

颯太が出ていったあと、しばらくは辛くて乗れなかった。

それでも手入れだけは忘れなかったから、今も現役。


春の日差しを受け、今日も真っ赤な自転車はピカピカしてる。


「…行きますか!」


久しぶりの自転車は、気持ちいい。

暑すぎず、かといって寒くない。

今日みたいな春の日は、本当にサイクリング日和。


「…――これで不安がなければ最高なんだけど……」


田中さんは何を思ってこの住所を持ってきたんだろう?

それも、あのタイミングで。

サヨナラするかもしれない。

そんな時に……

もし…もしあのとき、サヨナラしなかったら、この紙はどうなっていたのかな?

私の手元にはなかったと思う。

“一緒にいこう”じゃなかった。

“行ってごらん”って書いてあった。

きっと、私に関係する場所。

私に関係するものがある。

だから、きっとあのタイミングだったんだ。


あの場所に何があるのか。

帰ったら田中さんに連絡しよう。

ちゃんとサヨナラしよう。

“ありがとう”って言おう。


“楽しかった”って、自分の言葉で言おう。



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