わたしの魔法使い
『…――もしもし?朱里ちゃん?』


電話は、田中さんからだった。

あんなに傷つけたのに、携帯の向こうの田中さんは、いつもと変わりのない声だった。


『中埜くんには会えた?』

「…はい」

『それはよかった!それが気になっててね』


気にしてて……くれたんだ……


ずっと颯太を忘れられなくて、ずっと待たせてたのに……

相変わらず優しくて、大人な声だった。


「田中さん……あの……」

『何も言わないで。僕はね、朱里ちゃんが幸せなら、それでいいの。……朱里ちゃん、幸せ?』

「…はい……」

『それなら……よかったよ』


田中さんの優しさが痛い。

田中さんを傷つけたのに……

それでも私の幸せを願ってくれる。


田中さんは…やっぱり大人だった……



『…――それだけ、確かめたかったんだ。それじゃ……』


田中さん……

本当にありがとう……

傷つけてごめんなさい……



「……大丈夫?」

「ん……大丈夫……」


そっと目元を拭うと、颯太の方へ振り返った。


田中さんのお陰で、私は今幸せです。

ちゃんと……心から笑えてますよ……


「お腹……空いちゃったね」

「そうだなー。……今度は朱里の家に行こうか?ゴン太にも会いたいし」


私たちは店を閉めると、ゴン太の待つ部屋へ歩き出した。



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