わたしの魔法使い
チャカッ チャカッ



規則正しいゴン太の足音が響く。

雨の日に散歩する人、少ないんだよね。

それでもゴン太は気にすることなく歩き続ける。

「ゴン太、雨だから早めに帰ろうね」

私の声が聞こえていないのか、ゴン太は振り返りもしない。

まっすぐ前を向き、目的に向かって歩いてる。

その足取りは、もうすぐ10歳とは思えないほどしっかりしている。

いつも、どんな時も、ゴン太は一緒にいてくれた。

「病める時も、健やかなる時も……」

誓ったわけじゃないけど、いつも一緒。

犬と人間だけど。

でも……


「夫婦だ!!」


不思議そうに振り返るゴン太。


…すいません…

思ったことが、つい口からポロっと出ちゃいました。


少し笑いかけると、また前を向いて歩き始める。

ゴン太と歩く散歩道は、いつも同じだけど、いつも違う。

季節も、天気も、私の気持ちも。

毎日違うから、ゴン太との散歩は楽しい。

言葉を交わすことがなくても、笑いあうことがなくても、たった1本のリードでつながってる。それでいいや。


…何て思ってたら、突然

「ワンッ!」

とひと吠えして走り出した。



は…走るんですかー?

雨、降ってるんですけど?

私、傘持ってるんですけどー!


そんな私を気にすることなく、ゴン太は走る。

10才とは思えない、しっかりとした足取りで、目的に向かってまっしぐら。

20才を数年過ぎた私は、ゴン太のスピードについていけない。

「ゴン太!待って!待ってよー!」

そんな私の声にはお構いなしで、ゴン太は公園に入っていった。


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