わたしの魔法使い
「颯太さんの好きにすればいいよ…」

そういって朱里ちゃんは出て行った。


僕、何か悪いこと言った?

ただ「寝袋で寝る」って言っただけじゃん!

何でそんなに怒るの?

僕だって布団で寝たいよ。本音を言えばね。

だけど、布団まで用意して、朱里ちゃんに

「いつまでいるつもり?」

なんて思われたら嫌じゃん。

それなのに…

あんなに傷ついた顔されたら、どうしていいかわかんないよ。


僕はため息をつきながら、使った食器を洗う。

スポンジに洗剤をつけて、一つずつ、ゴシゴシと…



ひとり分の茶碗とお椀

ひとり分のパン皿とマグカップ

ひとり分の箸

ひとり分の割りばし



朱里ちゃんは一人で逃げてきた。

だからひとり分の物しかない。

それが寂しく感じる。

僕も一人だから…



ひとり分の食器しか揃っていないのは、やっぱり寂しい。

だけどね、布団やら食器やら、僕が使うものが増えたら、朱里ちゃんはきっと困る。

いつか本当に守ってもらえる人に出会ったら、僕が使っていたものは邪魔になるから。

だから、僕の物は増やしたくないんだよ…



出会ってまだ二日。

なのにもうこんな状態…

この先どうなるんだろう?



「あー!!考えてもしょうがない!!

ゴン太もいないし、今のうちに掃除するぞ!」


気合を入れて掃除機を探したけど


「ない!!」


朱里ちゃーん。掃除機はないのですか?

掃除機があったら簡単なんだよ~

でも、どこを探してもない。

まあ、探すって言ってもクローゼットだけだけど…


「しょうがない。掃除機がないなら、雑巾だ」


僕は雑巾を濡らすと、床を拭き始めた。



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