わたしの魔法使い
本もない。

テレビもない。

何もない部屋で待つって、結構苦痛。

考えたくないこととか、思い出したくないことが次々に浮かんでくる。



朱里ちゃん、どんな気持ちでこの部屋にいたんだろう。



ゴン太と二人、何をして過ごしていたんだろう。




……僕には無理だ……





部屋にいると思い出したくないこと全部、思い出す。

こういうときはね、外に出る!



ベランダには、今朝干した洗濯物が揺れている。ほとんどが朱里ちゃんのもの。

朱里ちゃんの服は、黒と白ばかり。

それもみんなデザインがシンプル。

それがとっても似合う。


僕の知っている女の人は、いつも香水と化粧の匂いをさせてて、キラキラした高そうな服を着てて…

でも、それが似合っていないことを知らない。

そんな人ばっかりだった。


だから、朱里ちゃんといると落ち着くのかもしれない。

大きな口を開けて、本当に楽しそうに笑うから。

今日の青空みたいに、気持ち良さそうに笑ってくれるから。


しかし……


「帰ってこないー!」



あっ、思わず叫んじゃったけど、僕、ベランダにいるんだ!


スゲー恥ずかしい……


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