マスカケ線に願いを
「なあ、今晩飲みに行かね?」
言い出したのは、コウだった。ユズと私は顔を見合わせ、小夜さんは小首をかしげた。
「良いバーみつけたんだよ」
「私は良いですけど……」
そう言った小夜さんを見て、私はユズに目配せをした。
「あー、俺達はパスするな」
「え」
「わかった。邪魔はできないか」
ユズが同伴を断ると、小夜さんが驚いたような声を上げて、コウが笑う。
「コウと小夜さんの二人で行ったらどうです?」
「小夜ちゃん、二人でもいいよな?」
しばらく硬直していた小夜さんは、自分の耳が信じられないという様子でうなずいた。
「じゃあ、決まり。終わったら待ってるから」
連絡して、とでも言うふうに携帯を掲げるコウを見て、私はこみ上げてくる笑みを抑えるのに苦労した。
「わ、私、主任に呼ばれてるんだった! お先に失礼します!」
真っ赤になった小夜さんが、慌ててお弁当箱を片付けてその場を去った。するとユズも、あっと声を上げた。
「あ、俺もやることあるんだった。じゃあ、杏奈、後でな」
「うん」
「なんだ、皆忙しいな」
奇しくもコウと二人きりになる。コウがなにやら含んだ笑顔で私を見てきた。
「なんです?」
「杏奈ちゃん、いっそのことユズと一緒に住んだら?」
「えっ?」
思わぬ言葉に、私は目を見開いた。そんな私の反応を見て、コウがくすくす笑う。
「お互いの部屋に泊まるのも面倒だと思うんだけどな」
「な、何でそんなこと……」
うろたえる私に、コウが目を細めた。