マスカケ線に願いを


「なあ、今晩飲みに行かね?」

 言い出したのは、コウだった。ユズと私は顔を見合わせ、小夜さんは小首をかしげた。

「良いバーみつけたんだよ」
「私は良いですけど……」

 そう言った小夜さんを見て、私はユズに目配せをした。

「あー、俺達はパスするな」
「え」
「わかった。邪魔はできないか」

 ユズが同伴を断ると、小夜さんが驚いたような声を上げて、コウが笑う。

「コウと小夜さんの二人で行ったらどうです?」
「小夜ちゃん、二人でもいいよな?」

 しばらく硬直していた小夜さんは、自分の耳が信じられないという様子でうなずいた。

「じゃあ、決まり。終わったら待ってるから」

 連絡して、とでも言うふうに携帯を掲げるコウを見て、私はこみ上げてくる笑みを抑えるのに苦労した。

「わ、私、主任に呼ばれてるんだった! お先に失礼します!」

 真っ赤になった小夜さんが、慌ててお弁当箱を片付けてその場を去った。するとユズも、あっと声を上げた。

「あ、俺もやることあるんだった。じゃあ、杏奈、後でな」
「うん」
「なんだ、皆忙しいな」

 奇しくもコウと二人きりになる。コウがなにやら含んだ笑顔で私を見てきた。

「なんです?」
「杏奈ちゃん、いっそのことユズと一緒に住んだら?」
「えっ?」

 思わぬ言葉に、私は目を見開いた。そんな私の反応を見て、コウがくすくす笑う。

「お互いの部屋に泊まるのも面倒だと思うんだけどな」
「な、何でそんなこと……」

 うろたえる私に、コウが目を細めた。
< 181 / 261 >

この作品をシェア

pagetop