マスカケ線に願いを



 翌日事務所に行くと、案の定ユズの噂があちこちで囁かれていた。そして、決まって私を見る好奇の視線。
 正直、距離を取ると決めるのがもう少し遅かったら、私は取り乱していたかもしれない。
 だけど少し冷静になっていたせいで、あまりショックを受けずにすんだ。

 小町さんのときだって、何にもなかったんだ。
 今回だって、きっと何もないはず。

 それでも、小町さんの時には前もって私に断っていたユズが、今回は何も言っていなかったということだけが、少し気になっていた。


『杏奈、悪い。今日は一緒に帰れない』
『杏奈、突然なんだけど今日の夜、暇? 高校のメンバーで久しぶりに会いたいってことになったんだけど』

 そんな、二通のメールが同時に入っていた。ユズからと、高校からの友人の美鈴からだ。

『高校の友達と会うことになったから、大丈夫だよ』
『久しぶり! 私も会いたい』

 二人にそれぞれ返信をした。
 しばらくすると美鈴から詳しい待ち合わせ場所が届く。誰が集まるのかは書いてなかったけれど、会えるのが久しぶりで楽しみだった。



「杏奈、久しぶり!」
「美鈴!」

 待ち合わせの場所で待っていると、美鈴に声をかけられて驚いた。

「わあ、杏奈ってば、前にも増して綺麗になった!」
「美鈴だよね、凄い雰囲気変わった!」

 高校時代はどちらかというと大人しい雰囲気だった美鈴が、少し髪を明るくしただけで随分雰囲気が違って見えた。
 私は美鈴と一緒にいるもう一人の女の子に目を向けた。

「杏奈、私のことわかる?」
「……もしかして、貴子?」
「そうだよ!」
「久しぶり!」

 私達三人は人目を憚らず、わいわい抱き合った。
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